前立腺がん関連ーその5ー
(Medical Tribuneなどから)
(2008年1月~)
血流中の腫瘍細胞測定で前立腺がんの治療効果を予測[2008年12月18日(VOL.41 NO.51]
王立マースデン病院(英サットン)のDavid Olmos博士は「精巣摘除治療抵抗性の前立腺がんの患者に対しては,血流中の腫瘍細胞数を測定することにより,治療への反応を正確に予測することができる」と欧州内科腫瘍学会(ESMO)ルガーノ会議(ECLU)で報告した。
他のマーカーより早期に予測
今回の研究対象119例のうち,血流中の腫瘍細胞数が最も少ない患者では平均生存期間が最も長いことが示された。
Olmos博士は「血流中のがん細胞は,さまざまな方法で検出することができる。われわれが用いた方法は,サイトメトリー法に分類される。上皮がん細胞で広く発現する抗体を用い,各種の細胞染色を行ってがん細胞を確認した」と説明した。
この研究は,血流中の腫瘍細胞数の変化が,治療困難なこの種のがんに対する化学療法のアウトカム予測因子となることを示したものである。同博士は「腫瘍細胞数の測定が,生存期間の予測と治療効果のモニタリングに有用な方法であることを示すエビデンスが増えているが,今回の結果もその1つと言える」としたうえで,� �回の結果について「血流中の腫瘍細胞数のほうが,前立腺特異抗原(PSA)や無進行期間といった他のマーカーよりも早期に治療への反応に関する情報が得られることが示された。血流中の腫瘍細胞が減少している患者では,治療効果を反映して当初の予後診断から変化が認められた」と述べた。
さらに,同博士は「血流中の腫瘍細胞は原発腫瘍からも転移部位からも遊離するので,がんの特性の研究や,おそらく治療のテーラーメード化にも有用であろう」と付言した。
~米国泌尿器学会~前立腺がんの凍結療法ガイドラインを更新[2008年11月6日(VOL.41 NO.45]
2007年に米国泌尿器科学会(AUA)が限局性前立腺がんの管理ガイドラインを改訂した時点では,凍結療法に関してはデータ分析に含めるほどの十分な情報がなかった。しかし,AUAはテキサス大学MDアンダーソンがんセンター(テキサス州ヒューストン)泌尿器科学および同センター前立腺がん検出クリニック所長のRichard J. Babaian教授を委員長とする専門家委員会を開き,前立腺がんの管理における凍結療法のエビデンスレベルを深く追求。その実施基準を同ガイドラインに盛り込み,Journal of Urology(2008; 180: 1993-2004)に発表した。
限局がんには適切な代替療法
同委員会が下した結論は,前立腺がん患者にとって,そのがんが限局性であればどのグレードにおいても凍結療法は適切な代替療法になりうるというもの。委員会は,2000〜08年に発表された医学文献をレビューした結果,この結論に至った。
同ガイドラインでは,特定のケースに対する凍結療法の決定で最も重要となるのは,症例の選択であるとしている。例えば,前立腺が大きい男性では,全体の温度を十分に低下させることが困難な可能性がある。経尿道的切除を受けた男性も禁忌となりうる。しかし,肥満や骨盤内手術歴などを伴うために根治的前立腺摘除術の適応に問題のある男性の場合は,凍結療法を考慮に入れるべきだとしている。凍結療法を実施する� ��は,熱電対による温度管理下での急速凍結やダブル凍結サイクルの使用,−40℃の最下点の実現などによって,最大限の効果を引き出すべきであるとしている。なお,尿失禁,直腸痛,尿道組織脱落を含む副作用は,技術的な進歩により大幅に減少した。Babaian教授は「凍結療法をその発展の経緯に基づいて見ると,2つの重要な点が明らかになった。それは,治療効果のエビデンスがあるという点と,技術の改良により治療の合併症が大幅に減少したという点である」と述べている。
多量の飲酒は,多くの健康上の問題を引き起こすが,前立腺がんの発生に限っては飲酒との関連を指摘することはできないようだ。ドイツがん研究センター(ハイデルベルク)のSabine Rohrmann博士らは「生涯のアルコール摂取量を算出しても,飲酒量の多い群とほとんど飲まない群との間で有意差は見られなかった」とドイツ栄養学会第45回学術会議で報告した。
欧州8か国で約15万人の男性を対象に行われたEuropean Prospective Investigation into Cancer and Nutrition(EPIC)試験では,飲酒に関する質問調査を実施するとともに,1992~2000年の観察期間(平均8.7年)中に新たに前立腺がんと診断された2,655例について分析した。
年齢,喫煙の有無,体格,運動,エネルギー摂取量など,複数の因子による調整の結果,飲酒は前立腺がん発生率に影響を及ぼさないことが示された。1日当たりの平均アルコール摂取量が60gを超える群と1日当たり0.1~4.9gの群を比較したところ,60gを超える群の相対リスク(RR)は0.88であったという。
英で低いPSA検査受検率 米に劣る前立腺がん死亡率低下の原因か[2008年7月24,31日(VOL.41 NO.30,31)]
米国では英国に比べ前立腺がんの死亡率が低い。この差はスクリーニングや治療によるものだろうか。これに関して,ブリストル大学のSimon Collin博士らは,1975~2004年の両国のデータを比較する研究を行ったが,ランダム化比較試験によるエビデンスが得られるまで,前立腺がんのスクリーニングと治療の役割について確実なことは言えないと結論している。詳細はLancet Oncology(2008; 9: 445-452)に発表された。
検査実施率に大きな差
1994~2004年に米国では英国に比べて前立腺がん死亡率が著明に低下しており,これは米国における同時期のスクリーニング受診者の増加と一致している。米国では前立腺特異抗原(PSA)値に基づく前立腺がんスクリーニングがほぼルーチンで実施されており,2001年の調査では,50歳以上の男性の57%が過去12か月にPSA検査を受けていた。一方,1999~2002年に英国の男性(45~84歳)では年間6%ほどしかPSA検査を受けていなかった。しかし,ルーチンのPSA検査によって前立腺がん死亡率が低下したという強力なエビデンスは存在しない。1990年代後半のデータをもとにして両国の前立腺がんの動向を比較した以前の研究では,米英ともにこの時期から死亡率が低下し始めていたが,米国のほうが急激な低下を� ��した。しかし,これをPSA検査の影響とするには,変化が現れるのが早すぎる。そこでCollin博士らは,1975~2004年の両国の前立腺がん死亡率の傾向をスクリーニングと治療の傾向と照らし合わせて比較した。その結果,1990年代初めに死亡率は最高に達し,その後低下し始めたが,94年以降は米国での低下率(年間4.17%)が英国(年間1.17%)の約4倍になっていることが明らかになった。2000年までの死亡率低下は,米国では75歳以上の患者において最も大きく,しかもその低下が長期間続いたが,英国では横ばいであった。
原因は推測の域を出ない
Collin博士は「両国における死亡率の差は,治療法とスクリーニング政策の違いに関係していると思われる。例えば,米国では高齢男性におけるLH-RHアゴニスト療法の施行率が高い。また,PSA検査実施率の高さゆえに発見された限局性前立腺がんや無症候性がんの患者に対して英国よりも侵襲的な治療が施行されている。さらに,別の因子として死因の特定の仕方に不備があることも考えられる」と述べている。さらに,同博士は「米国における前立腺がん死亡率の低下は英国に比べて著しいが,強力なエビデンスを提供してくれる試験の結果が発表されるまで,がんの検出率と治療法の差が与える相対的な影響や,恩恵と害の相対的な割合については推測の域を出ない。そのような試験の実施が待た� ��る」と結論している。
限局性前立腺がんに対する一次治療としてのADTと待機療法の生存率は同等 [2008年7月24,31日(VOL.41 NO.30,31) ]
海外の主要医学誌から(Journal Scan)
限局性前立腺がんに対する一次治療としてのアンドロゲン枯渇療法(PADT)に,経過観察を続け必要に応じてADTを行う保存的管理(待機療法)を上回る生存改善効果はないと,米ニュージャージー医科歯科大学のグループがJAMAの7月9日号に発表した。データが不足しているにもかかわらず,限局性前立腺がんの治療として手術,放射線療法,待機療法の代わりにPADTを受ける患者が増えている。同グループは,高齢の限局性前立腺がん患者におけるPADTと生存との関係を評価した。対象は,あらかじめ定められた地域で1992~2002年に限局性前立腺がんと診断された66歳以上の男性のうち,手術または放射線療法を受けていない1万9,271例。2006年まで全死亡を,2004年まで前立腺がん特異的死亡を追跡した。年齢中央値は77歳で,7,867例 (41%)がPADT,1万1,404例が待機療法を受けていた。追跡中の前立腺がんによる死亡は1,560例,全死亡は1万1,045例であった。PADT群は待機療法群と比べて前立腺がん特異的10年生存率が低く(80.1%対82.6%),全体の10年生存率の改善も認められなかった(30.2%対30.3%)。一方,サブ解析では,未分化がんに対するPADTは前立腺がん特異的生存率の改善と関係していた(59.8%対54.3%,P=0.049)。しかし,全生存率の改善は見られなかった(17.3%対15.3%)。 Lu-Yao GL, et al. JAMA 2008; 300: 173-181.
ワクチンでマウスの前立腺がん予防[2008年5月22,29日(VOL.41 NO.21,22)]
南カリフォルニア大学(USC,ロサンゼルス)ノリス総合がんセンター分子生物学・免疫学・産科婦人科学のW. Martin Kast教授らは,前立腺幹細胞抗原(PSCA)を標的としたワクチンの接種で,遺伝的な前立腺がん発症因子を持つ若齢マウスの90% で発がんを予防できたとCancer Research(2008; 68: 861-869)に発表した。
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