2012年6月4日月曜日

前立腺がん手術体験記


前立腺がん手術体験記

前立腺がん関連ーその5ー

 (Medical Tribuneなどから)
(2008年1月~)


血流中の腫瘍細胞測定で前立腺がんの治療効果を予測[2008年12月18日(VOL.41 NO.51]

 王立マースデン病院(英サットン)のDavid Olmos博士は「精巣摘除治療抵抗性の前立腺がんの患者に対しては,血流中の腫瘍細胞数を測定することにより,治療への反応を正確に予測することができる」と欧州内科腫瘍学会(ESMO)ルガーノ会議(ECLU)で報告した。

他のマーカーより早期に予測
 今回の研究対象119例のうち,血流中の腫瘍細胞数が最も少ない患者では平均生存期間が最も長いことが示された。
 Olmos博士は「血流中のがん細胞は,さまざまな方法で検出することができる。われわれが用いた方法は,サイトメトリー法に分類される。上皮がん細胞で広く発現する抗体を用い,各種の細胞染色を行ってがん細胞を確認した」と説明した。
 この研究は,血流中の腫瘍細胞数の変化が,治療困難なこの種のがんに対する化学療法のアウトカム予測因子となることを示したものである。同博士は「腫瘍細胞数の測定が,生存期間の予測と治療効果のモニタリングに有用な方法であることを示すエビデンスが増えているが,今回の結果もその1つと言える」としたうえで,� �回の結果について「血流中の腫瘍細胞数のほうが,前立腺特異抗原(PSA)や無進行期間といった他のマーカーよりも早期に治療への反応に関する情報が得られることが示された。血流中の腫瘍細胞が減少している患者では,治療効果を反映して当初の予後診断から変化が認められた」と述べた。
 さらに,同博士は「血流中の腫瘍細胞は原発腫瘍からも転移部位からも遊離するので,がんの特性の研究や,おそらく治療のテーラーメード化にも有用であろう」と付言した。


~米国泌尿器学会~前立腺がんの凍結療法ガイドラインを更新[2008年11月6日(VOL.41 NO.45]

 2007年に米国泌尿器科学会(AUA)が限局性前立腺がんの管理ガイドラインを改訂した時点では,凍結療法に関してはデータ分析に含めるほどの十分な情報がなかった。しかし,AUAはテキサス大学MDアンダーソンがんセンター(テキサス州ヒューストン)泌尿器科学および同センター前立腺がん検出クリニック所長のRichard J. Babaian教授を委員長とする専門家委員会を開き,前立腺がんの管理における凍結療法のエビデンスレベルを深く追求。その実施基準を同ガイドラインに盛り込み,Journal of Urology(2008; 180: 1993-2004)に発表した。

限局がんには適切な代替療法
 同委員会が下した結論は,前立腺がん患者にとって,そのがんが限局性であればどのグレードにおいても凍結療法は適切な代替療法になりうるというもの。委員会は,2000〜08年に発表された医学文献をレビューした結果,この結論に至った。
 同ガイドラインでは,特定のケースに対する凍結療法の決定で最も重要となるのは,症例の選択であるとしている。例えば,前立腺が大きい男性では,全体の温度を十分に低下させることが困難な可能性がある。経尿道的切除を受けた男性も禁忌となりうる。しかし,肥満や骨盤内手術歴などを伴うために根治的前立腺摘除術の適応に問題のある男性の場合は,凍結療法を考慮に入れるべきだとしている。凍結療法を実施する� ��は,熱電対による温度管理下での急速凍結やダブル凍結サイクルの使用,−40℃の最下点の実現などによって,最大限の効果を引き出すべきであるとしている。なお,尿失禁,直腸痛,尿道組織脱落を含む副作用は,技術的な進歩により大幅に減少した。Babaian教授は「凍結療法をその発展の経緯に基づいて見ると,2つの重要な点が明らかになった。それは,治療効果のエビデンスがあるという点と,技術の改良により治療の合併症が大幅に減少したという点である」と述べている。


 多量の飲酒は,多くの健康上の問題を引き起こすが,前立腺がんの発生に限っては飲酒との関連を指摘することはできないようだ。ドイツがん研究センター(ハイデルベルク)のSabine Rohrmann博士らは「生涯のアルコール摂取量を算出しても,飲酒量の多い群とほとんど飲まない群との間で有意差は見られなかった」とドイツ栄養学会第45回学術会議で報告した。
 欧州8か国で約15万人の男性を対象に行われたEuropean Prospective Investigation into Cancer and Nutrition(EPIC)試験では,飲酒に関する質問調査を実施するとともに,1992~2000年の観察期間(平均8.7年)中に新たに前立腺がんと診断された2,655例について分析した。
 年齢,喫煙の有無,体格,運動,エネルギー摂取量など,複数の因子による調整の結果,飲酒は前立腺がん発生率に影響を及ぼさないことが示された。1日当たりの平均アルコール摂取量が60gを超える群と1日当たり0.1~4.9gの群を比較したところ,60gを超える群の相対リスク(RR)は0.88であったという。


英で低いPSA検査受検率 米に劣る前立腺がん死亡率低下の原因か[2008年7月24,31日(VOL.41 NO.30,31)]

 米国では英国に比べ前立腺がんの死亡率が低い。この差はスクリーニングや治療によるものだろうか。これに関して,ブリストル大学のSimon Collin博士らは,1975~2004年の両国のデータを比較する研究を行ったが,ランダム化比較試験によるエビデンスが得られるまで,前立腺がんのスクリーニングと治療の役割について確実なことは言えないと結論している。詳細はLancet Oncology(2008; 9: 445-452)に発表された。

検査実施率に大きな差
 1994~2004年に米国では英国に比べて前立腺がん死亡率が著明に低下しており,これは米国における同時期のスクリーニング受診者の増加と一致している。米国では前立腺特異抗原(PSA)値に基づく前立腺がんスクリーニングがほぼルーチンで実施されており,2001年の調査では,50歳以上の男性の57%が過去12か月にPSA検査を受けていた。一方,1999~2002年に英国の男性(45~84歳)では年間6%ほどしかPSA検査を受けていなかった。しかし,ルーチンのPSA検査によって前立腺がん死亡率が低下したという強力なエビデンスは存在しない。1990年代後半のデータをもとにして両国の前立腺がんの動向を比較した以前の研究では,米英ともにこの時期から死亡率が低下し始めていたが,米国のほうが急激な低下を� ��した。しかし,これをPSA検査の影響とするには,変化が現れるのが早すぎる。そこでCollin博士らは,1975~2004年の両国の前立腺がん死亡率の傾向をスクリーニングと治療の傾向と照らし合わせて比較した。その結果,1990年代初めに死亡率は最高に達し,その後低下し始めたが,94年以降は米国での低下率(年間4.17%)が英国(年間1.17%)の約4倍になっていることが明らかになった。2000年までの死亡率低下は,米国では75歳以上の患者において最も大きく,しかもその低下が長期間続いたが,英国では横ばいであった。

原因は推測の域を出ない
 Collin博士は「両国における死亡率の差は,治療法とスクリーニング政策の違いに関係していると思われる。例えば,米国では高齢男性におけるLH-RHアゴニスト療法の施行率が高い。また,PSA検査実施率の高さゆえに発見された限局性前立腺がんや無症候性がんの患者に対して英国よりも侵襲的な治療が施行されている。さらに,別の因子として死因の特定の仕方に不備があることも考えられる」と述べている。さらに,同博士は「米国における前立腺がん死亡率の低下は英国に比べて著しいが,強力なエビデンスを提供してくれる試験の結果が発表されるまで,がんの検出率と治療法の差が与える相対的な影響や,恩恵と害の相対的な割合については推測の域を出ない。そのような試験の実施が待た� ��る」と結論している。


限局性前立腺がんに対する一次治療としてのADTと待機療法の生存率は同等 [2008年7月24,31日(VOL.41 NO.30,31) ]

海外の主要医学誌から(Journal Scan)

 限局性前立腺がんに対する一次治療としてのアンドロゲン枯渇療法(PADT)に,経過観察を続け必要に応じてADTを行う保存的管理(待機療法)を上回る生存改善効果はないと,米ニュージャージー医科歯科大学のグループがJAMAの7月9日号に発表した。データが不足しているにもかかわらず,限局性前立腺がんの治療として手術,放射線療法,待機療法の代わりにPADTを受ける患者が増えている。同グループは,高齢の限局性前立腺がん患者におけるPADTと生存との関係を評価した。対象は,あらかじめ定められた地域で1992~2002年に限局性前立腺がんと診断された66歳以上の男性のうち,手術または放射線療法を受けていない1万9,271例。2006年まで全死亡を,2004年まで前立腺がん特異的死亡を追跡した。年齢中央値は77歳で,7,867例 (41%)がPADT,1万1,404例が待機療法を受けていた。追跡中の前立腺がんによる死亡は1,560例,全死亡は1万1,045例であった。PADT群は待機療法群と比べて前立腺がん特異的10年生存率が低く(80.1%対82.6%),全体の10年生存率の改善も認められなかった(30.2%対30.3%)。一方,サブ解析では,未分化がんに対するPADTは前立腺がん特異的生存率の改善と関係していた(59.8%対54.3%,P=0.049)。しかし,全生存率の改善は見られなかった(17.3%対15.3%)。 Lu-Yao GL, et al. JAMA 2008; 300: 173-181.


ワクチンでマウスの前立腺がん予防[2008年5月22,29日(VOL.41 NO.21,22)]

 南カリフォルニア大学(USC,ロサンゼルス)ノリス総合がんセンター分子生物学・免疫学・産科婦人科学のW. Martin Kast教授らは,前立腺幹細胞抗原(PSCA)を標的としたワクチンの接種で,遺伝的な前立腺がん発症因子を持つ若齢マウスの90% で発がんを予防できたとCancer Research(2008; 68: 861-869)に発表した。


日ラピッドスタート減量にポンドを失う

前立腺がん管理の根本的変革
 現行では,前立腺がんの予測因子である前立腺特異抗原(PSA)値の上昇が認められる男性には,手術ではなく注意深く観察する待機管理が行われる場合がある。しかし,今回の知見は,将来的にワクチン接種だけで前立腺がんを予防できる可能性を示唆している。Kast教授は「早期のワクチン接種により,将来前立腺がんを発症するマウスで,基本的に生涯にわたり前立腺がんを予防することができた。これは過去にない知見であり,さらなる研究により,ヒトの前立腺がん管理を根本から変えることになるかもしれない。PSA値は上昇しているが,ほかにがんの徴候がない男性には,現在のところ徴候が出現するま� ��治療をせず,注意深い観察が勧められているが,その代わりにワクチンを接種すれば,前立腺がんの経過を変えることができる」と述べている。さらに,同教授は「今回の新知見は,前立腺がんは徴候が現れるまで待って治療するものではなく,予防するものだという新しい発想をも意味している」と付け加えている。

90%が1年後も生存
 今回の研究では,PSCAに対する免疫反応を高める予防的ワクチンをデザインした。PSCAは現在,開発中のいくつかの治療用ワクチンの標的蛋白質である。Kast教授は「PSCAは早期前立腺がん患者の約3分の1で過剰発現しているが,がんの増殖とともにその発現量は著明に増加する」と指摘している。接種は2段階で実施された。まず,8週齢の遺伝的に前立腺がんを発症しやすいマウスにPSCAをコ� ��ドするDNA断片を注入し,次いで2週間後にPSCA遺伝子改変ウマ脳炎ウイルスをベクターとして接種した。ワクチンを接種されたマウス20匹のうち,12月齢時までに前立腺がんで死亡したのは2匹のみで,そのほかのマウスでは小径のがんが発生したものの進行はしなかった。一方,ワクチンを接種しなかった対照マウスは,同時期までにすべて前立腺がんで死亡した。今回の知見でもう1つ重要な点は,PSCAが腫瘍細胞だけでなく正常細胞も標的にしていれば,ワクチン接種で自己免疫疾患が発生していたはずであるが,今回,こうした問題は起こらなかったことである。同教授は「ただし,こうした予防的ワクチンを接種した際に自己免疫が問題とならないことを確証するには,ヒトでの研究が必要である」と述べている。しかし全体としては� �「前立腺がんの予防に関して,ワクチンは非常に有望であると感じている。わずか2回の接種で,PSCAを過剰発現しているすべての細胞を監視する免疫細胞が産生された」と結論している。


~高グレード前立腺がん~根治的前立腺摘除術後の生存期間は12年[2008年5月15日(VOL.41 NO.20)]

 ミシガン州立ウェイン大学/カルマノスがん研究所(米ミシガン州デトロイト)泌尿器科管理主任研修医のRyanTerlecki博士は,初回の根治的前立腺摘除術(RP)を受けた高グレード前立腺がん患者の生存期間中央値が約12年であることを欧州泌尿器科学会(EAU)の第23回年次集会で報告した。

補助療法に有意な効果なし
 Terlecki博士らは,高グレード前立腺がん患者を初回のRP実施から10年間追跡し,全生存期間を調べた。該当する患者の抽出と分析に当たっては,カルマノスがん研究所のデータベースを用いた。計145例を選定し,外科術前になんらかのがん治療を受けた患者は除外した。手術時の患者の平均年齢は64歳で,生存期間の中央値は140か月であった。生存に関する予後不良の有意な危険因子は,年齢とアフリカ系米国人の2つのみであった。さらに,RP後の補助療法は生存期間に有意な効果をもたらさなかった。同博士は「この知見は,術後の補助治療では任意性を重視すべきであることを強調している」と述べた。注意点として,(1)後ろ向き研究のため得られた結果に限界がある(2)手術する患者を選択した� ��に偏りが生じる可能性を完全には否定できない(3)個々の外科医による結果の層別化を行わなかった―ことが挙げられた。


大豆含有のゲニステインに前立腺がん転移抑制の可能性[2008年5月8日(VOL.41 NO.19) ]

 ノースウェスタン大学Robert H. Lurie総合がんセンター(シカゴ)実験治療学のRaymond C. Bergan部長らは,大豆に含まれる化合物がマウスにおいてヒト前立腺がんの転移をほぼ完全に抑制したとCancer Research(2008; 68: 2024-2032)に発表した。

肺への転移を96%抑制
 この化合物はゲニステインという抗酸化物質で,今回の実験ではヒトが大豆を豊富に含む食品から摂取できる量に相当する量を使用した。同大学の研究者らは,ゲニステインを含む餌を摂取したマウスは,摂取しなかったマウスと比べて前立腺がんの肺への転移が96%抑制されたことを見出した。今回の研究は,ゲニステインにより前立腺がんの転移が抑制される可能性をin vivoで示した最初のものとなった。研究責任者のBergan部長は「これらの目を見張る結果から,ゲニステインがヒトの前立腺がん転移に対して予防効果を示す可能性が期待できる」と説明。「食事はがんに影響しうるが,その仕組みは魔法とは違う。食事に由来する物質中に,有益な効果をもたらすものが存在する。また,ゲニステインがきわめて有望な予防薬であるという可能性を示すために必要な前臨床試験は,既に十分に行われている」と述べている。同部長らは前立腺がん細胞培養において,ゲニステインが前立腺がん原発巣からのがん細胞の離脱を阻害し,細胞浸潤を抑制することを既に証明している。その機序は,p38MAPキナーゼ(腫瘍内に結合しているがん細胞を離脱させて腫瘍外に押し出し,移動させる蛋白質の活性化経路を制 御する分子)の活性化を阻害することによる。同部長らは「細胞培養では,ゲニステインを添加すると細胞が伸展して隣接する細胞に強く接着するために扁平化するのを実際に観察することができる」としている。

転移への一次効果有す
 今回の研究では,数群のマウスにゲニステインを投与してから,高浸潤性の前立腺がんを移植した。マウスの血中ゲニステイン濃度は,大豆食品摂取後のヒトの血中濃度と同等とした。その結果,ゲニステインにより前立腺内に形成された腫瘍のサイズが縮小することはないが,肺転移はほぼ完全に抑制されることが判明。反復実験でも同じ結果が得られた。続いてBergan部長らはマウスの組織を調べ,細胞が伸展するために扁平化したか否かを検討するため,腫瘍細胞の核のサイズを測定 した。同部長は「腫瘍内では細胞がどこまで広がっているかを同定するのは難しいが,接着の分析方法として,細胞核のサイズを測定して細胞の伸展により細胞核の幅が広がっているかどうかを調べるという方法がある」と説明。「今回の結果から,ゲニステインが転移に対する一次効果を有することが証明された」と述べている。今回の研究で,ゲニステインを投与されたマウスではがん細胞の移動に関与する遺伝子の発現レベルが高くなることも判明した。このことは一見,ゲニステインがほぼ完全に転移を阻止したとする今回の研究の結論と矛盾するかもしれない。しかし,同部長らは「われわれがマウスに移植した細胞は,通常は移動する性質を持っている。その移動能がゲニステインにより制限されると,細胞は移動に関与する� ��白質の産生を増やすことでこれを補おうとしたが,ゲニステインがその蛋白質の活性化を阻害したと考えられる」と説明している。また「治療効果の判定にバイオマーカーを利用する研究者らにとって,この結果はまさに教訓となる。研究者は,バイオマーカーは物事の半面しか捉えていない可能性を念頭に置く必要がある」と注意を促している。

臨床試験で有用性の証明を
 さらにBergan部長は,がんの転移抑制におけるゲニステインの使用についてはまだ不明な点が多いと警告した。例えば,生涯にわたって大豆を摂取してきた人々におけるゲニステインの作用は,ゲニステインの摂取を始めたばかりの患者に見られる作用より強いと考えられる。同部長らは「われわれが直面している問題は,大豆を摂取する男性は前立腺がんの死亡リスクが低いとするどの疫学的研究も,これらの因子を推測により関連付けている点である。そうした研究結果は何の証明にもならない。ゲニステインの有用性を明らかにするには,臨床試験を行う以外に方法はないだろう」と述べている。ヒトを対象とした観察研究では,大豆を豊富に含む食品を摂取する男性は前立腺がんの転移が少 ないことが判明しているが,前立腺がんの発症率に顕著な差が生じるかどうかは結果が一致していない。ゲニステインを用いた基礎研究の結果も一様ではないが,大半ではゲニステインの有効性を示す結果が得られている。このことから,同部長は蛋白質をリン酸化することで,蛋白質を活性化させるチロシンキナーゼなどの多様な細胞内分子をゲニステインが阻害していることが証明できるとしている。今回の研究は米国復員軍人局の支援を受けた。


肉体労働レベルが高いと前立腺がん発症リスクは低い[2008年4月24日(VOL.41 NO.17) ]

  カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)ジョンソンがんセンターとUCLA公衆衛生学部(ともにロサンゼルス)疫学のBeate Ritz准教授らは,UCLAオリーブビュー教育研究所,ミシガン大学(ミシガン州アナーバー)と共同で,航空宇宙メーカーで働く男性の職種と前立腺がん発症リスクとの関連を検討。肉体労働従事者で前立腺がん発症リスクが低いことが示唆されたとCancer Causes Control(2008; 19: 107-114)に発表した。


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放射線や化学薬品に曝露歴
 今回の研究対象は,Rocketdyne社(カリフォルニア州サンフェルナンドバレー)のロケットエンジン試験施設の男性従業員2,100例以上。その多くは,発がん性が示唆されている放射線や化学薬品への曝露歴があった。Ritz准教授らは,前立腺がんを発症した男性362例と,年齢と社会経済的地位が同等で前立腺がんではない男性1,805例を比較し,がん発症群には肉体労働従事者が少ないことを確認した。同准教授は「今回の知見は,積極的に身体活動を行えば前立腺がんを予防できる可能性を示唆している。デスクワークに就いている人は,なんらかの身体活動を行って埋め合わせをすべきであろう」と述べている。今回の研究は,同社の原子力� ��ロケットエンジン試験施設に1950年代~90年代初期に勤務していた男性1万例以上を対象とした大規模研究の一環として実施されたコホート内症例対照研究で,従業員の前立腺がんは88年1月~99年12月に診断され,がん発症率のデータはカリフォルニア州がん登録と従業員が退職後に移住したと思われる近隣州のがん登録7件から入手した。従業員が従事したと思われる職種別の肉体労働レベルと危険物質への曝露レベルを分類した職業曝露連関表は,同社内の記録を用いて作成した。肉体労働の強度は低・中等・高の3段階に分類した。低強度群は部・課長,監督者,管理者などの管理職とアナリスト,上級エンジニアで,中等度群は上級整備士,専門技師,検査員,エンジニアなど,高強度群は石工,れんが職人,金属部品組立工,溶接工,� ��包作業者,塗装工,工具・金型工,トラック運転手,リフト操作者,清掃員などであった。

継続的な身体活動が重要
 解析の結果,肉体労働レベルの低い職種に就いている男性のほうが前立腺がん発症者が多かった。また,前立腺がん発症者はヒドラジン,ベンゼン,鉱油,多環芳香族炭化水素(PAH),トリクロロエチレン(TCE)など発がん性が確認もしくは疑われている化学物質への曝露度が対照群に比べて高かった。今回の知見は,前立腺がん発症リスクを減少させるには断続的ではなく,継続的な身体活動が必要であることを示した他の複数の研究でも裏づけられている。運動が前立腺がん発症リスクを低下させる生物学的機序は特定されていないが,運動をすることで人によってはホルモンレベルが変化するのでは� ��いかと推測する専門家もいる。今回の研究は,主観的記憶や面接者の先入観の問題を排除するために個人記録と職務内容説明マニュアル,業界の衛生検査報告,退職者との面接を行って職業曝露連関表を作成している点が特徴である。また,前立腺がん発症率のデータを入手できたため,死亡率データを用いずにすんだ。Ritz准教授は「前立腺がんのほとんどは短期間では死に至らないため,死亡率は解析データとして適切ではない」と指摘している。一方,研究の限界として,筆頭研究者でオリーブビュー教育研究所疫学のAnusha Krishnadasan博士は,娯楽的な身体活動や食事など前立腺がん発症リスクに影響しやすい他の因子を評価できなかったことを挙げている。同博士は「今回の結果から確実に言えることは,運動量の多い生活を長年継続してきた航空宇宙メーカーRocketdyne社の従業員では前立腺がん発症リスクが低いということだ」と述べている。さらに,サブグループ解析では前立腺がん発症の危険因子として家族歴,アフリカ系米国人,前立腺がんの定期スクリーニング受診記録のある者が特定された。


前立腺がんガイドラインを改訂 放射線治療はリスクに従って線量を調節[2008年4月17日(VOL.41 NO.16) ]

 ロズウェルパークがん研究所放射線医学・分子・細胞生物物理学科長でニューヨーク州立大学バッファロー校(ともにバッファロー)放射線腫瘍学のMichael R. Kuettel教授は,前立腺がんガイドラインの改訂を,全米総合がんネットワーク(NCCN)の第13回臨床ガイドラインとがん治療の質年次集会で発表し,「中~高リスクの前立腺がんに対する放射線療法には原体照射または強度変調照射を用い,低リスクがんよりも高線量を照射すべきである」と述べた。

高線量では特に臓器移動に注意
 Kuettel教授は「低リスク前立腺がんに対する線量は70~79Gyで十分であり,リンパ節には照射しなくてもよいことが示唆されている。また,アンドロゲン抑制療法も必要ない」と述べた。前立腺の位置は膀胱や腸の充満状態により最大2cmは変化するため,75Gyを超える線量では,照射ごとに位置確認をする特別な作業が必要とされる。同教授は「中~高リスク患者では,75~80Gyの照射が必要で,骨盤� ��ンパ節への照射も同時に検討すべきである」とした。また,同ガイドライン改訂版では,こうした患者には照射療法後4~6か月間のアジュバントアンドロゲン抑制療法の併用を考慮すべきであるとしている。同教授は「1997~2001年に実施された複数の後ろ向き研究から,高線量の放射線照射で前立腺がん管理が改善されることが示唆された。2002~07年のランダム化比較試験でも高線量照射でがんの抑制率が改善することが示されている」と説明した。しかし,原体照射法や強度変調照射法によって確実に前立腺全体に照射するのは困難であることを,医師は念頭に置かなければならない。同教授は同一の患者に対する一連の放射線照射データを示し,「標的臓器の移動には照射ごとの移動と1回の照射中の移動があり,照射中の臓器移動 のほうが制御困難である」と述べた。照射中の標的臓器の移動は,患者の呼吸や心臓の鼓動,腸運動,嚥下,くしゃみなどの動作により発生する。高線量を照射する際には,放射線が前立腺からそれた場合,直腸などの近傍組織に有害な影響を与えるため,標的の移動制御は重要である。


前立腺がんの遺伝的危険因子を同定[2008年4月17日(VOL.41 NO.16) ]

 英国がん研究会(CR UK,ロンドン)のRosalind Eeles博士とケンブリッジ大学(ケンブリッジ)CRUK遺伝疫学ユニットのDouglas Easton教授らは,男性の前立腺がん発症リスクと関連するヒトゲノムの7部位を新たに同定したとNature Genetics(2008; 40: 316-321)に発表した。

2つの遺伝子変異を検討
 Eeles博士らは,前立腺がんのスクリーニングとモニタリングに有用と思われる遺伝子MSMBを同定した。別の部位にはLMTK2 と呼ばれる遺伝子があり,これは新しい治療法の標的にすることが可能である。これらの新たに同定された遺伝子変異は,前立腺がん全症例の半数以上に認められた。それぞれの遺伝子は,前立腺がんリスクを最大60%高める。前立腺がんの進展に影響する要因は多数存在するが,遺伝子の特定の組み合わせが主要な役割を果たしていると考えられている。今回の研究は,ゲノム規模のがん研究としてこれまでで最多の遺伝的危険因子を同定することに成功した。同博士は「今回の興味深い知見により,前立腺がん発症リスクを正確に測定することが容易となり,より対象を絞り込んだスクリーニングと治療法の開発につながるだろう」と述べている。研究チームは,英国とオーストラリアで1万例以上の男性の遺伝子組成の差異を研究した� ��61歳以前に前立腺がんと診断された(1,171例),または前立腺がんの家族歴がある(683例)という背景により,前立腺がんの遺伝リスクが高いと考えられる男性のDNAのスキャンから開始。同一の地域に居住する前立腺がんを発症していない対照群(1,894例)と比較した。次に,これらの遺伝子変異が,非前立腺がん男性(3,366例)よりも前立腺がん男性(3,268例)でより多く見られるか否かを調べた。Easton教授は「乳がんや肺がんなどの他のがんと比較すると,前立腺がんの進展過程はあまり知られていない。今回の結果から,この重要な疾患に関する知識がかなり深まるであろう」としている。CRUKのHarpal Kumar会長は「今回の結果は,前立腺がんに対する男性の易罹患性を理解するための突破口となる。多くの研究者の国際的な連携と技術の多大な進歩のお陰で,英国の男性が最も罹患しやすい前立腺がんに関して,さらに多くの発見を期待できるヒトゲノムを徹底して探索することが可能である。これらの知見から,医師や研究者が前立腺がんの診断と治療で直面する主要な問題の一部が明らかとなり,他の分野での進歩と組み合わせれば治癒も可能になるであろう」と述べている。


前立腺がん PSAを超える非侵襲検査法を開発[2008年4月10日(VOL.41 NO.15)]


脊柱側弯症を無効に

 ミシガン大学ミシガントランスレーショナル病理学センターのArul Chinnaiyan所長らは,今回開発した実験的なバイオマーカー検査が現在使用されているどのスクリーニング法よりも正確に前立腺がんを検出するとの知見をCancer Research(2008; 68: 645-649)に発表した。
今後の改良にも期待
 Chinnaiyan所長らは「4種類のRNA分子の有無を調べる簡単な尿検査により,のちに前立腺がんを発症した被験者の80%を正確に同定し,その他の被験者における前立腺がんを否定する有効性は61%であった」と述べている。これは現在世界中で行われているPSA検査よりはるかに正確である。同検査は患者の前立腺がんを正確に検出する半面,がん以前の前立腺肥大でも陽性になることが多い。現在,米国と欧州で用いられている比較的新しいPCA3検査は,前立腺がんに特異的な分子を検出するが精度はさらに低い。同所長は「この"第1世代マルチバイオマーカー検査"は,研究者が前立腺がんの分子的基盤を解明するにつれてさらに改良されるであろう。前立腺がんがあるか否かを予測するうえで正確性が高く,生検� �しでがんの可能性を除外できる検査法を開発したい」と述べている。同所長らは,前立腺がんでは染色体の断片の位置が入れ替わり2つの遺伝子が互いに入り込む遺伝子融合が多く認められており,また前立腺がんのいくつかの型では過剰な増殖を抑制する分子スイッチを無効にすることが原因となっている可能性があるという最近の知見をもとに検査法を開発した。同所長らは2005年にERGやETV1(いずれもいくつかの種類のがんに関与していることが知られている)と融合する前立腺がんに特異的な遺伝子TMPRSS2を明らかにしており,2007年にはERGやETV1と融合して前立腺がんを生じる5つの遺伝子を同定した。今回の研究では,PCA3検査をもとに,TMPRSS2:ERGを含む6種類の異なるバイオマーカーや一般的に前立腺がんで過剰発現しているいくつかの� ��子と特定のがんサブタイプに過剰発現している分子を調べた。
生検なしで正確に診断
 Chinnaiyan所長らは,同大学泌尿器科クリニックで前立腺生検を受ける前に,PSA値が高い男性234例の尿サンプルを集めた。このグループのなかで,生検の結果から前立腺がんの診断が確定されたのは138例で,96例ではがんが認められなかった。尿バイオマーカー検査の結果を生検のデータで修正することにより,7つのバイオマーカーのうちGOLPH2(全般的に前立腺がんで過剰発現),SPINK1(前立腺がんのあるサブセットで過剰発現),PCA3転写発現,TMPRSS2:ERG融合体の4つを併用することで,前立腺がんを有意に予測できることが明らかになった。7つのマーカーのうち,これまでに診断用バイオマーカーとして報告されていたのはPCA3のみである。GOLPH2,PCA3,SPINK1のバイオマーカーを個々に調べたところ,いずれ もPSAより優れていた。PSAでは,被験者全例が潜在的に前立腺がん陽性とされた。4つのバイオマーカーを組み合わせることにより,特異度と陽性的中率を75%以上にすることができた。これはPCA3検査単独の場合に比べて5%高かった。特異度とは,患者に疾患がなかった場合に陰性の検査結果を示す確率で,陽性予測値は陽性の結果が正しい診断である患者の割合である。同所長は,今回の開発後に広く検証された検査は,最初はすべてPSA検査の補助として使われると考えている。今回の研究は早期検出研究ネットワーク(EDRN),米国防総省,米国立衛生研究所(NIH),前立腺がん財団,Gen-Probe社(カリフォルニア州サンディエゴ)の助成を受けた。遺伝子融合技術は同大学が特許を保有し,同社がライセンスを受けた。同社はまたPSA3スクリー� ��ング検査を開発している。


複数の遺伝子多型で前立腺がんリスク増加[2008年3月20日(VOL.41 NO.12)]

 近い将来,前立腺がんになりやすい男性を簡単なDNA検査で同定できる可能性が出てきた。カロリンスカ研究所(ストックホルム)のHenrik Gr?berg教授らは,既知のリスク遺伝子を複数保有する男性では,前立腺がん発症リスクが 4 ~ 5 倍高まるとの知見をNew England Journal of Medicine(2008; オンライン版)に発表した。

臨床で使える遺伝子検査に
 現在,前立腺がんを疑われる男性の同定には前立腺特異抗原(PSA)検査が行われている。しかし,同検査の感度は比較的低く,さらに高感度の検査法が求められていた。Gr?berg教授は「近い将来,PSA検査と簡単な遺伝子検査を組み合わせることが可能になるであろう。これは不必要な生検数を減らしながら,より多くの前立腺がんの診断を可能にすることを意味している」と述べている。前立腺がんの原因の一部が,前立腺がんを発症しやすくする遺伝的因子であることは以前から知られていた。既に,前立腺がんリスクを変化させる遺伝子多型として比較的多く認められる変異が 5 つ同定されている。しかし,これらの遺伝子変異それぞれによるリスクの変化はわずかで,それが判明しても個々の患者に対する現実的な影響はなかった。 しかし今回,同教授らと米国の共同研究者により,これらの遺伝子変異の蓄積による影響が初めて解析された。その結果,リスクに関与する遺伝子多型を 4 つ以上有する男性では前立腺がん発症リスクが 4~ 5 倍高くなることが示された。近親者に患者がいれば発症リスクはさらに増加する。今回の研究は,複数の遺伝子多型の組み合わせにより前立腺がんの発症リスクが変化することを示した最初の報告である。今日では世界中の研究者ががん,糖尿病,喘息などの患者が多い疾患に関与する複数の遺伝子多型の組み合わせについて研究している。同教授は「このような種類の研究で,臨床的に実行可能な遺伝子検査の開発につながった例は今回が初めてである」と述べている。今回の研究ではスウェーデン人約4,800例を対象に遺伝子解析を行ったが,うち3,000例が前立腺がんで,そのなかで1,800例は前立腺がんの診断を受けていなかった。


~細胞核内のヒストンH4~前立腺がんを免疫系に伝える[2008年2月28日(VOL.41 NO.9)]

 スローン・ケタリング記念がんセンター(MSKCC,ニューヨーク)ハワードヒューズ医学研究所(HHMI)研究員のPeter Savage博士らは,マウスの実験において身体の免疫系がきわめてありふれた分子を使って前立腺がんを認識できることを発見し,Science(2008; 319: 215-220)に発表した。その分子は身体のすべての細胞にある蛋白質由来であるが,免疫細胞はその分子が腫瘍内の細胞表面にある場合にのみ反応するようである。

がん細胞認識との関係を解明
 ヒストンH4と呼ばれるこの蛋白質がどのような機序で免疫系に悪性腫瘍細胞を認識させるかを解明することができれば,自身の免疫系を活用してがんと闘う免疫療法に役立つ可能性がある。免疫療法のなかには既に臨床使用されているものもあるが,未解明の問題も多く残されている。特に研究者が解明したいことは,がん細胞が免疫系に「自分はがん細胞だから破壊してくれ」と示すような分子的道標を示しているか否かである。Savage博士らは今回,マウスの前立腺がんにおいてそのような道標の 1 つを発見した。今回の知見は免疫療法の進歩に寄与することが期待される。
 研究責任者でMSKCCラドウィグがん免疫療法センターのJames P. Allison所長は「がん,特に早期がんに対する免疫応答の仕組みはほとんどわかっていない。そのステージでのがんは見分けがつかないのか,あるいは免疫細胞はそれを見分けられるのか。もし見分けられるとすれば,免疫応答をしかけることができるのか。この 2 つが大きな疑問点である」と述べている。

がん細胞を見分けるが免疫応答は弱い
 Allison所長らの研究によると,免疫細胞は実際,マウスの実験では前立腺がん細胞を見分けることが可能であったが,がん細胞に対する免疫系の攻撃は弱いものでしかなかった。しかし,同所長らが同定した道標は弱い免疫応答の活性化に役立つかもしれない。その戦略とは,キラーT細胞と呼ばれる特定の免疫系に依存するものである。この細胞には身体に属さない分子を認識するためのレセプターが多数密に存在している。T細胞は未知の分子を認識すると,その分子を有する細胞を破壊しようとする。T細胞は複製され,その後はその未知の分子を捕捉できるようになる。同所長はテキサス大学(テキサス州オースチン)に在職していた1982年� ��,侵入する細胞上の分子シグナルを認識するフォークのような形をした蛋白質,T細胞抗原レセプターを見出した。それぞれのT細胞は遺伝子とランダムな過程により決定された異なるレセプターを持っている。ヒトの身体の細胞数全体よりも多い何兆個もの異なるT細胞レセプターが存在可能である。正常組織においてはT細胞上のレセプターの分布はランダムである。つまり,T細胞全体で一連のレセプターを持ち,ある種類が他の種類よりも多いということはない。しかし今回の研究で,Savage博士は,マウスの前立腺がんには特定のレセプターを持つT細胞が多数存在することを見出した。このことは,ある 1 つのT細胞ががんを認識し,増殖したということを意味する。


核内のヒストンH4が細胞表面に移動
 Savage博士は,前立腺がんのあるマウス20匹中15匹でこのレセプターの過剰発現を確認した。Allison所長は「つまり何かが起こっているということである。正常マウスではこのような発現は見られない」と述べている。その時点で同所長らは,マウスの免疫系ががんの,ある特定の道標を認識していることは理解していたが,その道標が何であるかはわからなかった。同所長は「当然,"T細胞が認識しているものは何か"という疑問に直面した。さまざまな試みがそれから始まった」としている。
 がん細胞を細断し,この抗原提示細胞と同定したレセプターを持つT細胞を混合した。すると,T細胞のスイッチが入り実際に正しいレセプターであった� �とがわかった。しかし,対照群での実験でも,細断した組織はほとんどどれでもT細胞を活性化した。もしあらゆる組織がT細胞を活性化させるのであれば,道標はがん特異的でないことになる。マウスを遺伝子工学的に操作して当該レセプターのみを持つT細胞を産生させたところ,なぞはさらに深まった。これらのT細胞はすべての組織を攻撃するのではなく,弱々しくではあったが,前立腺がんのみを攻撃した。次に,がん細胞の特定の部分にのみ焦点を当てたところ,細胞核由来の分子のみがT細胞を活性化させることが突き止められた。
 同所長は「これは全くの驚きだった。というのも通常,核蛋白質は細胞表面には現れてこないからである」と述べている。生きている動物においてT細胞は他の細胞の表面の分子のみを認識し,� ��のなかまではのぞきこむことはできないからである。さらに,T細胞を活性化させた核蛋白質の同定を試み,ついにヒストンH4にたどり着いた。細胞内のDNAを覆う包装紙として,ヒストンは核内に豊富に存在する。この発見により,細断された正常細胞がなぜT細胞を活性化させたかが説明できる。正常細胞のヒストンが細断により露出されていたためである。同所長らはT細胞を活性化させた分子道標を同定したが,別の大きな疑問にもぶつかることになった。それは,がん細胞の表面にどのようにしてヒストンが移動してくるかである。同所長は「すべての細胞には多量のヒストンが存在するが,がん細胞がなぜそれを表面に移動させるのかは不明である」としている。同所長らは現在,前立腺がん患者と他のがん患者の血液を調べ,マウ スと同じようにヒトでもヒストンに対する感受性を持つT細胞が見つかるかどうかを検討している。「もし見つかれば,われわれはこれらの細胞を取り出し活性化を試みるであろう。これらの細胞は既にがんを認識している。もしこれらを動員することができれば,治療効果も期待できるであろう」 同所長らはまた,血中のヒストンH4反応性T細胞の存在が,前立腺がんの早期発見のための診断マーカーとして活用できるか否かについての研究も行っている。


~ホルモン非依存性乳がんと前立腺がん~新規微小管阻害薬で退縮[2008年2月7日(VOL.41 NO.6)]

 インペリアルカレッジ(ロンドン)内分泌学・代謝医学のSimon Newman博士らは,新規の微小管阻害薬STX140がホルモン療法抵抗性の乳がんと前立腺がんの治療に有効であることをモデルマウスで確認し,詳細を British Journal ofCancer(BJC,2007; 97: 1673-1682)に発表した。

がんの細胞分裂を阻害
 乳がんや前立腺がんの多くは,エストロゲンやテストステロンなどの性ホルモンの作用により増殖する。ホルモン療法では体内のホルモン濃度を下げ,ホルモンからがんに送られるシグナルを遮断することで腫瘍を"餓死"させる。しかし,最初からホルモン療法に抵抗性のがん細胞もあり,また,多くのがんが長期治療に伴って抵抗性を獲得し,ホルモン非依存性細胞の増殖を開始する。こうしたホルモン療法抵抗性は,がん治療の難関の 1 つである。今回の研究では,STX140がマウスに移植したホルモン非依存性の腫瘍細胞においてがん細胞を直接標的としてアポトーシスを誘発すること,がん細胞における血管新生を抑制して増殖に不可欠な栄養供給を遮断することが示された。前立腺がん患者の約80%はホルモン療法に反応するが,治療の継続につれて抵抗性を示すようになる。一方,現行の乳がん治療はきわめて有効性が高いものの,ホルモン非依存性がんに対する治療選択肢は前立腺がんに比べて少ない。筆頭研究者のNewman博士は「今回の結果はまだ初期段階のものであるが,細胞分裂に関与する器官である微小管を標的とすることで,ホルモン療法抵抗性のがん治療上の大きな問題を克服できることが示された。STX140は微小管を阻害し,がん細胞の増殖を停止させ破壊� �る」と述べている。さらに,「STX140を用いた臨床試験により,ヒトにおけるこの治療法の有効性が確認されることを期待している。臨床試験の結果がわれわれの動物実験を反映するものであれば,ホルモン療法抵抗性のがんに対する新たな治療法につながるであろう。また,現行の薬剤より副作用の少ないことにも期待が持てる」と付け加えている。

現行の治療に副作用などの問題
 Newman博士らは,STX140がさまざまな前立腺がんおよび乳がん細胞株に有効であることを確認した後,がん細胞を移植したマウスに60日間経口投与した。その結果,腫瘍 8 個のうち 5 個は退縮し,そのうち 2 個は88日後に完全消失した。当初反応しなかった 3 個の腫瘍は,それ以後も同じサイズであった。 ホルモン抵抗性のがんに対するタキサン系など現行の抗がん薬は副作用もあり,静注療法は 3 週間間隔でしか施行できない。STX140は経口投与が可能なばかりでなく,同じ微小管阻害薬のタキサンを同じマウスの腫瘍に投与した場合よりも有効性が高いことが確認された。BJCを発行する英国がん研究会がん情報部のLesley Walker部長は「がんの薬剤抵抗性をいかに克服するかは,多くのがん患者に共通した問題であり,その研究はきわめて重要である。既存の薬剤をベースにして,より優れた標的治療を開発することは,がん研究分野のなかでもやりがいのある仕事である」と指摘。「STX 140がヒトに使用できるかどうかを見極めるにはさらに試験が必要であるが,抗がん薬抵抗性を標的とした治療法は,非常に多くの患者に便益をもたらす」と述べている。


緑茶の摂取により進行性前立腺癌のリスクが低下 [2008年1月24日(VOL.41 NO.4) ]

海外の主要医学誌から Journal Scan

 緑茶の摂取により進行性前立腺癌のリスクが低下する可能性があることを示すデータが,日本の国立がんセンターのグループによりAmerican Journal of Epidemiologyの 1 月 1 日号に発表された。日本を含むアジアの国々の前立腺癌発症率は欧米と比べかなり低い。この研究は,緑茶の摂取がアジア人において前立腺癌の発症率が低いことと関係しているのではないかとの仮説を検証する目的で行われた。1990年と93年に40~69歳の男性計4 万9,920人を登録,緑茶の摂取習慣を含む調査を行い,2004年まで追跡した。この間に404例が新たに前立腺癌と診断された(進行性114例,限局性271例,未確定19例)。解析の結果,緑茶の摂取は用量依存的に進行性前立腺癌のリスク低下と関連があり,1 日の緑茶の摂取が1杯未満の男性と比べて,5 杯以上飲む男性の進行性前立腺癌のリスクは約50%低かった(相対リスク0.52,95%信頼区間0.28~0.96,P=0.01)。一方,緑茶の摂取による限局性前立腺癌のリスク低下は認められなかった。Kurahashi N, et al. Am J Epidemiol 2008; 167: 71-77.


肥満が前立腺癌の検出に影響 [2008年1月24日(VOL.41 NO.4) ]

 デューク大学医療センター(ノースカロライナ州ダーラム)のLionel L. Ba?ez博士らが「体重が重い前立腺癌患者は,body mass index(BMI)が高いと血漿量も多いという単純な理由から,前立腺特異抗原(PSA)値が低下するリスクを抱えている」との研究結果をJAMA(2007; 298: 2275-2280)に発表した。

血漿量増加による血液希釈
 これまでの研究で,肥満ではない男性に比べて,肥満男性のPSA値が低いことが明らかにされていた。しかし,Ba?ez博士らによると,BMIが高い男性は血漿量も多く,そのために可溶性腫瘍マーカーの血漿中濃度が低下する血液希釈を引き起こす可能性があるという。今回の研究では,デューク前立腺センターの患者1,974例,ジョンズホプキンス大学(メリーランド州ボルティモア)の患者1万287例,Shared Equal Access Regional Cancer Hospital(SEARCH)データベースに登録されている患者1,373例のBMIデータを調査した。全例が1988~2006年に根治的前立腺摘除術を受けている。解析の結果,BMIが35以上の男性は,正常体重の男性に比べて血漿量が21~23%多かった。また,臨床病理学的な交絡因子を調整すると,BMIが35以上の男性は,正常体重の男性に比べてPSA値が11~21%低いことが判明した。同博士らは「血漿量の増加による血液希釈が,BMIの高い男性におけるPSA値低下の要因となっている可能性があり,これが肥満男性における前立腺癌の検出や進行の評価に悪影響を及ぼす可能性がある」と結論。ただし「このBMIとPSA値との関連性は,前立腺癌ではないスクリーニング受診群の前向き研究で確認する必要がある」と述べている。


肥満で前立腺癌死亡リスクが増加[2008年1月17日(VOL.41 NO.3) ]

 マサチューセッツ総合病院(ボストン)放射線腫瘍学のJason Efstathiou博士らは,前立腺癌の診断時に過体重や肥満であった男性は治療後の死亡リスクが高いとの知見を Cancer(2007; 110: 2691-2699)に発表した。同博士らによると,癌診断時のbody mass index(BMI)高値は,限局性前立腺癌による死亡の独立した危険因子で,診断時のBMIが25以上の男性では,25未満の男性と比べて死亡率が約 2 倍であった。


5年後の死亡率は約13%
 米国で2007年に前立腺癌と診断された男性は21万8,000人以上,前立腺癌による死亡は 2 万7,000人以上と推定される。肥満が臨床的悪性度の高い前立腺癌の危険因子であることは既に確認されているが,前立腺全摘除術,外照射放射線療法,ホルモン療法などの治療後の生存に肥満が与える影響は,あまり解明されていなかった。Efstathiou博士らは,長期にわたる大規模ランダム化試験のデータを用いて,BMIと前立腺癌死亡率との間に独立した相関が認められるか否かを初めて検討した。限局性前立腺癌患者788例の 8 年間の追跡データを解析した結果,診断時の肥満または過体重は,前立腺癌による死亡の独立した危険因子となることが示された。正常体重(BMI<25)の男性と比べ,BMIが25~30の男性では,死亡リスクは1.5倍強,30以上の男性では1.6倍であった。治療開始から 5 年後の前立腺癌死亡率は,正常体重の男性が 7 %未満であったのに対し,BMI 25以上の男性では約13%であった。これまでの住民ベース研究で,肥満と前立腺癌に特異的な死亡率とは相関することが報告されているが,今回の知見はそれを支持するものである。同博士は「今後の研究で,肥満や過体重が前立腺癌死を増大させる機序を解明し,他の治療法や臨床的に限局性の癌にBMIが与える影響を評価すべきであろう。また,前立腺癌診断後の減量により,癌の進行過程を変えることが可能か否かも,確認する必要がある」と結論している。


進行性前立腺癌 フィナステリドで早期検出率が向上 [2008年1月10日(VOL.41 NO.2) ]

  フィナステリドは,肥大した前立腺を縮小させ,前立腺癌リスクを25%低下させる。コロラド大学保健科学センター(コロラド州デンバー)のM. Scott Lucia博士,テキサス大学保健科学センター(テキサス州サンアントニオ)のIan M.Thompson博士らは,急激に進行する前立腺癌を最も治療が容易な早期の段階で検出できる確率は同薬投与下で高まることが強く示唆されたとJournal of the National Cancer Institute(2007; 99:1375-1383)に発表した。

前立腺の縮小で生検感度が上昇
 以前は,フィナステリドがなんらかの機序で高侵襲性の前立腺癌を惹起するのではないかと懸念されていた。これに対し,Thompson博士は「前立腺癌リスクが懸念され,定期的に前立腺特異抗原(PSA)検査を受けている男性がフィナステリドを服用すれば,前立腺癌リスクが低減するだけでなく,高リスク癌の発見が容易になる」と主張。「フィナステリドはPSA検査の診断能を向上させることから,癌の早期発見に有用である。われわれが行った試験でも,同薬が前立腺を縮小させることにより,癌に対する生検の感度が上昇することが示された。生検により進行の遅い癌が検出されても,進行の速い癌が見落とされてしまうと,実際には迅速な治療が必要とされている� ��もかかわらず経過観察が行われてしまう恐れがある。したがって,検出精度の向上はきわめて重要である」と述べている。今回の試験で前立腺摘除術時に高悪性度の癌が認められたケースのうち,生検時で既に検出に成功していたのはフィナステリド群の69.7%に対し,プラセボ群では50.5%にとどまっていた(P=0.01)。また,前立腺摘除術を受けた患者のうち高悪性度の癌が占める割合は,生検時にはフィナステリド群42.7%,プラセボ群25.4%と有意差が見られたのに対し(P<0.001),前立腺摘除術時には46.4%対38.6%とその差が縮小していた(P=0.10)。

便益をルーチンに伝えるべき
 Thompson博士は「複数の試験の結果,フィナステリドの使用に伴い性機能障害などを生じる懸念は薄れていることから,心疾患リスクを有す� ��患者にスタチン系薬の便益を伝えるのと同様に,PSA検査のために来院した男性患者にはフィナステリドの便益をルーチンに伝えるべきだ」と提言している。2003年に報告された 7 年間にわたる前立腺癌予防試験(Prostate Cancer Prevention Trial;PCPT)から,フィナステリドが高悪性度癌リスクの上昇に関与している可能性が示唆されていた。しかし,今回の試験では,フィナステリドが腫瘍形態に及ぼす作用よりはむしろ,前立腺体積を縮小させる作用や低悪性度癌に対する選択的な抑制作用により,高悪性度前立腺癌を増加させるとした高悪性度癌リスクの上昇というPCPTの結果に反映された可能性が示された。今回の結果から,フィナステリドが高悪性度癌を誘発する懸念を払拭することはできないが,フィナステリド群ではプラセボ群よりも高悪性度癌が早期に発見され,腫瘍の拡大が小さかったことが示された。

悪性化率の上昇は見られず
 PCPTでは,フィナステリドの使用と前立腺癌全体の発症率低下との相関が明らかになった。しかし,フィナステリド� ��ではプラセボ群よりも高悪性度前立腺癌の発症率が高かったことも同時に示され,いくつかの疑問が浮上した。なお,ここでの高悪性度腫瘍は,Gleasonスコアが 7~10の腫瘍と定義された。PCPTの初回発表によると,フィナステリド群における高悪性度腫瘍の占める数は757個中280個(37%)で,プラセボ群では1,068個中237個(22.2%)であった。今回の試験では,Gleasonスコア 8~10の前立腺生検標本(フィナステリド群90個,プラセボ群52個)を対象に,組織学的検査を実施してホルモンの影響を検討した。さらに,Gleasonスコア 7 ~10の前立腺生検標本(フィナステリド群282個,プラセボ群244個)で腫瘍範囲を示す病理学的代替指標を分析・検討した。加えて,生検時に前立腺体積を測定し,根治的前立腺摘除術標本(フィナステリド群222個,プラセボ群306個)で腫瘍の悪性度と範囲を調べ,可能な場合は前立腺腫瘍悪性度の群間比較を行った。

前立腺体積は25.1cm3対34.4cm3
 その結果,前立腺体積はフィナステリド群がプラセボ群に比べて小さいことがわかった(中央値25.1cm3対34.4cm3,P<0.001)。また,フィナステリドの投与は,腫瘍範囲を示す病理学的代替指標の低値と関連していた。陽性コア率の平均(34%対38%,P=0.16),最大平均腫瘍径(4.4mm対4.8mm,P=0.19),総合平均腫瘍径(7.6mm対9.2 mm,P=0.13),両側性(22.8%対30.6%,P=0.046),周辺神経への浸潤(14.2%対20.3%,P=0.07)といった数値が得られた。 注目すべきは,フィナステリド群とプラセボ群の高悪性度腫瘍標本において,ホルモンによる退縮性変化が同等であった点である。 筆頭研究者のLucia博士は「悪性化率(生検時に低悪性度癌であったものが前立腺摘除術時に高悪性度になる割合)と前立腺摘除術時の病理学的ステージは,両群で類似していた」と報告している。


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